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病気とケアの基礎知識

病気とケアの基礎知識

甲状腺疾患

甲状腺疾患は甲状腺の異常や障害によって引き起こされる症状の総称です。疾患には、甲状腺ホルモンの分泌過剰による甲状腺機能亢進症や、分泌不全による甲状腺機能低下症、急性・慢性甲状腺炎、単純性甲状腺腫、甲状腺がんなどがあります。

甲状腺について

甲状腺は首の前部、のどぼとけのすぐ下にあり、大きさが縦4.5cm、横4cmの臓器です。正面から見ると蝶の形に似ています。気管や食道とはつながってはいません。
からだの新陳代謝を調節する甲状腺ホルモン(T4, T3)を分泌し、甲状腺ホルモンは全身のいろいろな臓器に作用し、エネルギー産生や様々な代謝、心臓系の調節などに関与しています。

甲状腺は脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって甲状腺ホルモン分泌の調節を受けています。
たとえば甲状腺ホルモンの分泌が低下すると、血液中の甲状腺ホルモン濃度が低下します。脳下垂体はそれを感知してTSHをたくさん分泌して、甲状腺ホルモンを分泌させます。反対に血液中の甲状腺ホルモン濃度が上がりすぎると、脳下垂体はそれを感知してTSHの分泌を減らします(ネガティブフィードバック)。

甲状腺ホルモンについて

甲状腺ホルモンには、2つの種類があります。T4(サイロキシン)と T3(トリヨードサイロニン)です。甲状腺ホルモンには、大きく分けると3つの働きがあると考えられています。

1. 細胞の新陳代謝を盛んにする

代謝とは、脂質や糖質を燃やしてエネルギーを作り出し、生体の熱産生を高めることです。

2. 交換神経を刺激する

交換神経が刺激されると、脈が速くなったり、手が震えたりします。

3. 成長や発達を促す

甲状腺ホルモンは、胎児や小児が正常に成長、発達するために不可欠なホルモンです。甲状腺はさまざまな作用を持っていますが、おおまかに言えば全身の代謝を高めるホルモンです。そのため、ホルモンが出すぎると、脈が速くなり、体温も上昇し、汗をかくようになります。反対にホルモンが不足すると、脈が遅くなり、体温は低下し、活気がなくなってしまいます。

甲状腺ホルモンが増加する病気

甲状腺ホルモンが体内で多くなると、体重減少、動悸、暑さに耐えられない、手の震え、全身のだるさなどの症状がでます。これが、甲状腺中毒症の症状です。厳密にいうと甲状腺中毒症と甲状腺機能亢進症は同じではありません。甲状腺ホルモンが多すぎて症状がでるものを甲状腺中毒症といい、その中で甲状腺が働きすぎて必要以上に甲状腺ホルモンを作っている状態が甲状腺機能亢進症です。

甲状腺中毒症・甲状腺機能亢進症の症状

血液中の甲状腺ホルモンが増えると上図のような症状が現れます。どれか一つの症状だけ現れるのではなく、通常は複数の症状が同時に現れます。交感神経が刺激されて生じる動悸などの症状は緊張した時の症状によく似ており、自律神経失調症やパニック障害と間違われることもあります。
症状は、少なくとも一週間以上持続します。頻度の高い症状は体重減少で、6割で認められますが、若い方の場合は食欲亢進が体重減少に勝って太ることもありますので注意が必要です。高齢者では振戦、動悸といった交感神経亢進症状が少ない傾向にあります。

甲状腺中毒症

甲状腺中毒症とは、血液中の甲状腺ホルモンが増えることで全身の代謝が亢進した病態をさし、上記のような諸症状を呈します。代表的なものは、甲状腺機能亢進症、無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎等です。

甲状腺中毒症をきたす代表的疾患

●甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンの合成・分泌が亢進)

バセドウ病/プランマー病/TSH産生腫瘍/妊婦性一過性甲状腺機構亢進症

●破壊性甲状腺炎(甲状腺組織の破壊によって甲状腺ホルモンが血中に放出)

無痛性甲状腺炎/亜急性甲状腺炎/橋本病急性憎悪

●甲状腺ホルモン過剰摂取

甲状腺中毒症

甲状腺からの甲状腺モルモンの合成、分泌が亢進し、甲状腺ホルモンの血中濃度が過剰に上昇している状態です。代表的なものは、バセドウ病です。他に甲状腺の腫瘍が甲状腺ホルモンを分泌しているプランマ―病(甲状腺機能性結節:結節とは、しこりのこと)、TSHを産生する細胞が腫瘍化して自律的にTSHを産生し、TSHと甲状腺ホルモンが過剰に作られる TSH産生腫瘍、妊娠初期に胎盤から分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピンにより一時的に甲状腺ホルモンの産生が過剰になる妊娠性一過性甲状腺機能亢進症などがあります。

破壊性甲状腺炎

甲状腺のろ胞構造の破壊が起こると、ろ胞内のコロイドにサイログロブリンとして存在する甲状腺ホルモンが血中に放出されるため血中の甲状腺ホルモン濃度が高値になります。出産や薬剤が誘因となり甲状腺が徐々に壊れる無痛性甲状腺炎と、甲状腺(前頚部)の痛みや発熱を伴う亜急性甲状腺炎などがあります。多くの場合、血中甲状腺ホルモンは 3か月以内に正常化します。

甲状腺の組織を顕微鏡でみると、「ろ胞」と呼ばれる小さな袋のような構造がたくさん集まっています。この袋の壁は「ろ胞上皮細胞」であり、ここで甲状腺ホルモンのもとをつくって、「ろ胞」の中にたまっている液体(コロイド)に一時的にストックします。甲状腺に炎症などの破壊がおこると、コロイドにストックされている甲状腺ホルモンが一時的に血中に高濃度に放出されるので、甲状腺中毒症を引きおこします。
(一般社団法人 日本内分泌学会 ホームページより )

甲状腺ホルモンの過剰摂取

甲状腺ホルモンや組織を摂取しても甲状腺中毒症になります。輸入品のやせ薬や漢方薬に甲状腺ホルモン薬が混入されていて知らずに摂取してしまうことがあります。

甲状腺ホルモンが不足する病気

甲状腺ホルモンが体内で不足すると、全身の代謝が低下するため、体のさまざまな機能が低下します。寒気、体重増加や便秘、皮膚の乾燥や脱毛、指で押しても後を残さないむくみなどを生じます。また精神機能が低下することで眠気、無気力、集中力の低下、抑うつなどの症状がでます。
しかし、機能低下が軽度の場合は、症状や所見に乏しいことも多く、診断が確定するまで長期間見逃されてしまうこともあります。
また、甲状腺ホルモンは代謝の調節以外にも、妊娠の成立や維持、子供の成長や発達に重要なホルモンのため、甲状腺機能が低下すると、月経異常や不妊、流早産や妊娠高血圧症候群などと関連し、胎児や乳児あるいは小児期の成長や発達の遅れとも関連してきます。

甲状腺機能低下症の症状

甲状腺機能低下の原因は、甲状腺でのホルモン合成と分泌が低下した場合と、甲状腺ホルモンは十分供給されているのに、標的組織の作用に異常があってホルモン作用が発揮されない場合があります。前者は、甲状腺自体に原因がある場合(原発性甲状腺機能低下症)と、甲状腺自体には異常はありませんが下垂体や視床下部の機能低下が原因の場合(中枢性甲状腺機能低下症)があります。後者は甲状腺ホルモン不応症と呼ばれ、甲状腺ホルモン受容体の先天異常が原因であることが多いです。

原発性甲状腺機能低下

甲状腺が破壊され、甲状腺ホルモンが低下するものです。よくみられる原因は慢性甲状腺炎(橋本病)、医学的治療後、ヨウ素過剰、先天性、ヨウ素欠乏です。世界的にはヨウ素摂取不足によるものが最も多いですが、日本では見られません。
甲状腺機能低下症は永続性と一過性があります。ヨウ素過剰摂取や薬剤が原因の場合、無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎後の甲状腺治療低下症の多くは一過性です。

破壊性医学定期治療によって生じる
甲状腺機能低下症甲状腺炎

バセドウ病や甲状腺腫瘍の治療後などの医療行為によって生じるものです。バセドウ病に対して放射性ヨウ素治療を行うと、約半数以上の患者さんが甲状腺機能低下症になります。ただし、甲状腺機能低下症となっても甲状腺ホルモン剤を内服すれば甲状腺機能を正常に維持できます。また、バセドウ病の治療で抗甲状腺薬を過剰に内服すると甲状腺機能低下症となりますが、多くは一過性で、投薬の中止により改善します。
甲状腺腫瘍などで甲状腺を全部とる手術を受けた場合、すべての方が永続的な甲状腺機能低下症となります。この場合も甲状腺ホルモン剤を内服すれば甲状腺機能は正常に維持できます。

ヨウ素過剰摂取

ヨウ素をたくさん摂りすぎると甲状腺の働きを弱めてしまいます。甲状腺に異常のない方がヨウ素を大量に摂取しても、甲状腺機能低下症となることはあまりありませんが、甲状腺に異常を持っている方がヨウ素を摂りすぎると、甲状腺機能低下症を起こすことがあります。ヨウ素の過剰摂取としてよくみられるのが、ヨウ素含有うがい液でうがいを毎日行っている方などです。
バセドウ病で抗甲状腺薬を内服している患者さんが、ヨウ素を大量に摂取すると甲状腺機能がさらに変化することがありますが、普段の食事でヨウ素を制限する必要はありません。

先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)

生まれたときから甲状腺機能が低下している赤ちゃんがいます。先天性甲状腺機能低下症と呼ばれています。 状腺機能がさらに変化することがありますが、普段の食事でヨウ素を制限する必要はありません。

中枢性甲状腺機能低下症

脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)が減少したり、または視床下部から分泌されたTSHを刺激するホルモン(TRH)の減少によって、甲状腺が刺激されなくなる場合です。原因は、脳腫瘍、脳外傷・くも膜下出血後(十年以上して発症することもあります)、脳外科手術後などです。

甲状腺の病気のなかでも、最も多くの方にみられる「バセドウ病」と「橋本病」。ホルモンの働きが変化して起こる代表的な病気で、特徴として女性に多く発症します。更年期や加齢の症状と似ているので、見逃さないよう注意が必要です。

バセドウ病

バセドウ病は、甲状腺中毒症をきたす代表的な病気です。人口1000人あたり、0.2~3.2 人と報告されており、特に20~30代の若い女性に多い病気です。男女比は1:3~5くらいと言われています。

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原因

甲状腺を刺激する抗体(TSH 受容体抗体)が原因と考えられていますが、本当の原因は分かっていません。

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症状

頻脈、眼球突出、甲状腺の腫大の3つの症状がそろえばバセドウ病と言えるのですが、このすべてがそろうとは限りません。

主な症状

●甲状腺機能亢進症

動悸・息切れ・発汗・集中力の低下・疲労感・手の震え・体重減少など

●眼球突出やまぶたの腫れなどの眼の症状

結膜(白目の部分)の充血・まぶたがつりあがる・目の痛み・視力低下など

●びまん性の甲状腺腫大

甲状腺が全体的にはれている

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診断

甲状腺ホルモンと
甲状腺刺激ホルモンの測定

甲状腺ホルモン(FT3, FT4)が高値、甲状腺刺激ホルモン(TSH)は低値になります。

TSH受容体抗体の測定

抗TSH受容体抗体(TRAb)は、バセドウ病の99%で陽性となります。

甲状腺超音波検査

バセドウ病では、びまん性に甲状腺が腫大し、甲状腺内の血流が増加します。

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治療

薬物療法、131I内服療法、甲状腺摘出術の3種類の治療法があります。日本では主に薬物療法が初期治療として行われています。

治療法 特徴
薬物療法 甲状腺ホルモンの産生を抑える抗甲状腺薬を内服します。血液中の甲状腺ホルモンが低下することにより、甲状腺機能亢進症状も軽快します。治療開始2週間後くらいから少しずつ症状が軽快し、通常1~2か月もすればかなり良くなりますが、治療効果は個人差が大きく、一旦よくなっても再発することもあります。薬物療法を2年以上継続しても薬を中止できる目途が立たない場合は、他の治療法を検討します。
重要な副作用として、白血球がほとんどなくなってしまい(無顆粒球症)、体の免疫力が低下し、高熱や喉の痛みなどがでることがあります。その他、肝機能障害やじん麻疹などの皮膚症状などがあります。
131I内服療法 放射性ヨウ素を使ったアイソトープ療法です。薬物療法の副作用発現例や再発例などに用いられます。放射線ヨウ素のカプセルを内服すると放射性ヨウ素が甲状腺に集まり、甲状腺の組織を破壊し甲状腺が小さくなり、その結果甲状腺ホルモンが低下します。治療後は、多くの方が甲状腺機能低下症になるため、甲状腺ホルモン補充療法が必要となります。また、実施できる医療機関が限られています。
甲状腺摘出 薬物療法の副作用発現例や早期の妊娠希望者などに行われます。最も早く確実に治療効果が得られます。再発がないように全摘出を行うと甲状腺ホルモン補充療法が必要となります。

橋本病

橋本病は、若い世代から中高年の女性に多いのが特徴で、成人女性の約3~10%を占めるといわれています。

1

原因

自己免疫の異常によりリンパ球が自己の甲状腺組織を破壊して、慢性炎症が生じます。 また甲状腺ホルモンが不足し、甲状腺機能低下症となるとさまざまな症状が現れます。

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症状

甲状腺が大きくなります。甲状腺機能が正常の場合には症状はみられませんが、甲状腺ホルモンが不足してくると、顔や手足のむくみ、寒がり、体重増加など、甲状腺機能低下症特有の症状がみられます。

主な症状

●甲状腺のはれ

大きさは、ほぼ正常なものから明らかに分かるくらい大きなものまでさまざまです。

●甲状腺機能低下

むくみ・寒気・皮膚の乾燥・脱毛・物忘れ・眠気・無気力・体重増加・便秘・月経異常など

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診断

甲状腺ホルモンと
甲状腺刺激ホルモンの測定

甲状腺ホルモン(FT4)が低値で甲状腺刺激ホルモン(TSH)は高値になります。

抗甲状腺マイクロゾーム抗体、
または抗サイログロブリン抗体の測定

甲状腺超音波検査

典型的な所見は、甲状腺のびまん性腫大、表面の凹凸不整像、内部エコーレベルの低下ならびに不均一、粗雑化です。

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治療

甲状腺機能が正常な場合には治療の必要はありません。甲状腺機能低下があれば甲状腺ホルモン剤(チラージンS®)の服用が必要となります。甲状腺機能低下症は治る場合もあり、内服が一生必要とは限りません。
高齢者や冠動脈疾患、不整脈のある患者さんでは、慎重に内服を開始します。内服治療は通常少量から開始し、維持量にまで徐々に量を増やします。維持量に達するのには数か月かかることもあります。
甲状腺ホルモン値が正常範囲内で、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高値の場合は、潜在性甲状腺機能低下症と言います。我が国での調査では健康な人の4~20%にみとめられるといわれており、特に女性に多く年齢が上がるにつれて増加します。治療すべきかどうかについては、未だに議論が多いですが、持続性にTSH値が高値の場合や、妊娠を前提とした場合や妊婦さんに対しては甲状腺ホルモン剤の内服を開始します。

甲状腺疾患は、当院の甲状腺外来で診療を行っております。
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